京都大学大学院経済学研究科准教授 山﨑潤一

はじめに

研究アイディアの練り方

あくまで一例ですが、こんな感じで僕は考えることが多いです。これらの要素が揃えば揃うほど良い論文だと思いますが、最初から(特に学部の段階で)それを揃えるのは難しいとは思うので、どれかを切り口にして考えてみると良いと思います。因果推論の基礎的知識を前提した説明もありますが、それに限らずヒントにはなると思います。

ちなみに色々思考を広げすぎると論文が書けなくなるので、因果関係の特定を前提とするならば、例えばDifference-in-Differencesができるコンテクストを探す、という一歩目をまずは踏み出すというのが修論だとfeasibleかもと思います。

重要性の訴え方

重要性の訴え方に関しては、「〇〇の市場はXXX円だ」のように現実との関連で訴えかける時もありますし、「〇〇は経済学で基本的なコンセプトでそれを使った予測は多いが、実証論文は少ない」みたいにあくまで学術的に訴えかける時もあります。色々な論文を読むことでその辺り吸収できると思います。

これらを考えてくることに慣れると、最初に論文のアブストラクト(とできればリテラチャーサーベイ)を考えて、「もし計画が100%うまく行ったらこんな論文になる」というのを書いてみます。これで面白くなさそうだったり、シャープなことが言えないのであれば、多分そのプロジェクトはやめた方がいいです。実際は計画通りにデータが取れなかったりするので、ここで微妙だったらさらに微妙になる確率が高いと思います。もちろんやっているうちに色々アイディアが出ることもありますが、時間は有限なので最初の一歩を間違えないことも大事だと思います。

良い仮説とは?

できればですが、結果次第で「論文になるかどうか」が変わらないようにするのが理想です。例えばAがBに与える影響を調べるときに、理論的チャネルによってはその正負どちらかわからないので調べる、といったスタンスで望めば「あれ?正のはずなのにおかしいな」と書けなくなることも減るでしょうし、有意性がなくても本当に効果がほぼゼロならそれから学べることはあります(参考論文)。避けるべきはサンプルサイズが小さくてStandard Errorがおおきく何もpreciseに推定できずにCI が広がり有意にならないといった状況で、効果がゼロになることではないように思います。もちろん例えば効果が正に出た方が論文のインパクトが大きいことはあり得ますが、それは結果論なので始めるときにはそれほど気にすることはなくて、「これは問う価値があるリサーチクエッションだ」とドンと構えておけばいいんじゃないか、と僕は思ってます。卒論修論だと論文を書く技術の習得が目的の一つだと思うので、特に当てはまると思います。